三陸の昆布漁は、多くの場合、船から鎌を使って手作業で行われます。機械収穫が普及している産地もありますが、Kelp Whisper Groveが仕入れる大船渡の佐々木一家は、今も手摘みにこだわっています。その理由と、手摘みが原料品質に与える影響について書きます。

手摘みと機械収穫の違い

機械収穫は効率的ですが、成熟度にかかわらず一定の範囲を刈り取ります。手摘みでは、漁師が一枚ずつ昆布の状態を確認しながら収穫します。佐々木さんは「色が濃くて、葉の端が少し波打っているものが一番いい」と言います。この選別が、エキスの粘度と風味に直結します。

収穫後72時間以内の処理

昆布は収穫後、時間が経つほど細胞壁の多糖類が分解されていきます。Kelp Whisper Groveでは、収穫後72時間以内に低温乾燥処理を開始することを原則としています。大船渡から上田まで、冷蔵輸送で約18時間。アトリエに届いたその日から処理を始めます。

漁師との長期的な関係

2019年の創業時から、佐々木一家との取引が続いています。最初の連絡は、私のほうから電話をかけたことでした。「昆布を肌に使いたい」という話に、最初は戸惑われたそうです。それでも試作品を送り続け、2019年の秋から正式な取引が始まりました。今年から長男の佐々木 拓海さんも漁に加わり、次の世代へと続いています。

産地直送が品質に与える影響

流通を経た昆布は、複数の倉庫を経由する過程で温度・湿度の変動にさらされます。産地から直送することで、この変動を最小限に抑えられます。Kelp Whisper Groveの昆布は、大船渡から上田への直送のみ。中間業者を介さないことで、原料の状態を毎回確認できます。

年四回、仕入れに通う

私たちは年に四回、上田から大船渡まで足を運びます。電話やメールでも注文はできますが、自分の目で束を見て、手で乾き具合を確かめてから、その季節に分けてもらう量を決めたいのです。スタッフ三人の小さなアトリエなので、一度にお願いするのは多くても二百本ほど。選んだ昆布は、後日まとめて冷蔵便で上田まで届きます。

夏のはじめ、まだ暗いうちに港へ着いた朝のことを、よく覚えています。佐々木さんの船が戻ってくると、甲板に積まれた昆布から、湯気のような潮の匂いが立っていました。今年の海は水温が少し低めで、葉の伸びが例年より遅いのだと、佐々木さんは言います。「焦らずに、もう少し待つ年だな」と笑っていました。海の都合に、こちらが合わせる。手摘みというのは、つまりそういうことなのだと思います。

届いた昆布は、その日のうちにアトリエで乾かし始めます。機械で一気に乾かすのではなく、低めの温度でゆっくりと。急ぐと表面だけが乾いて、中に水分が残ってしまうからです。乾き上がるまで、何度も手で触れて確かめます。地味な作業ですが、ここを省くと原料の質が変わってしまう。手間のかかるところは、たいてい一番大事なところです。

手摘みの昆布は、量産品と比べてコストがかかります。それでもこの方法を続けているのは、原料の状態を自分の目で確認できることが、処方の品質に直結するからです。今季の昆布を使った製品は、今季のコレクションからご覧いただけます。